大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2643号 判決

本件記事は前記のとおり小山省二等数名の者の談話を掲載したものであつて、被控訴新聞社の記者が自ら取材したところに基きこれに批判論議を加えたものではないから新聞紙の評論の記事ではなく、右小山等の談話をそのまま談話という形式で掲載したもので、いわゆる報道の記事に属するものである。ところで原審並びに当審証人甘利璋八、原審証人竹内繁、棚橋一尚の各証言と右棚橋証人の証言により真正に成立したものと認める乙第一、二号証によると、被控訴新聞社においては前記総選挙に際し特に政治部、社会部、地方部など関係部課からなる臨時選挙対策本部を設けて編集局長小島文夫がその本部長となり公正にして迅速な選挙報道を実施する方針を樹て、右方針に基いて、同新聞社八王子支局に対し選挙特集の記事を書くことを指示し、よつて同支局勤務の甘利璋八等四名の記者が分担して前記小山等の選挙の得票予想等に関する談話を実際に聴取し、これを本社に送つた結果、本件記事として掲載されるに至つたものであることを認めることができるのであつて、右認定を覆し、小山等が全くこのような談話をしたことがないとか、又は談話の内容が掲載されたところと異ると認むべき証拠はない。してみると、右報道の記事は、ある党派或はある候補者について特に偏した立場或は態度をとつたものではなく、事実を報道するという点では相当な注意が払われてなされたもので、その内容についても虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲したものとみることはできない。しかも、右談話の内容なるものは、予想であり、本件記事の見出しにあるとおり「皮算用」であつて、殊に政党政派の責任者としての地位にあるものが予想として外部に発表する内容は、一般的にみれば自派に有利に他派に不利に傾きがちであるから、幾分の誇張や潤色があつても深く咎めることはできない。従つてこのような予想記事が新聞に掲載された場合、一般読者は以上のような趣旨を諒解して読むのが普通である。してみると、本件のような一新聞の記事によつて選挙人全般がその自由な判断によつて投票することが妨げられ、選挙の根本理念である自由公正が害されたのとは到底考えることはできない。

そもそも、新聞又は雑誌の報道及び評論の自由は、それが虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害しない限り、憲法の保障する表現の自由として尊重せらるべきであつて、公職選挙法第一四八条は、社会の公器としての新聞及び雑誌がその本来の使命である報道及び評論によつて、国民の正しい批判の資料を提供することを期待し、このことを明定しているのである。そうであるから本件記事は社会の公器である新聞の表現の自由の範囲に属するもので、違法性を欠くものといわなければならない。

(村松 伊藤 小河)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!